twitterでふらっと見かけた早稲田教育の問題が面白そうな気がしたので解いてみました。解説してみようと思います。
すべての正の実数 $x$ に対して $\displaystyle \left( 1 + \frac{1}{x} \right)^x < 3$ であり、また $\displaystyle \lim_{n \to \infty} \left( 1 + \frac{1}{x} \right)^x = e$ であることが知られている。以下では $n$ は自然数とし、 $i$ は虚数単位を表すとする。
(1) $\displaystyle \lim_{n \to \infty} {\left| 1 + \frac{i}{n} \right|}^n$ を求めよ。
(2) $\left(1 + \frac{i}{n} \right)^n$ の実部を $a_n$ 、虚部を $b_n$ とするとき、 $\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n$ と $\displaystyle \lim_{n \to \infty} b_n$ を求めよ。
2018 早稲田大 教育学部
解いてみた感想
複素数?極限?なんかぱっと見できそうだけど、数秒後に「あ、これなんかやだな」ってなりそうな問題ですね。まぁ、実際に気づいちゃうと別に大したことないのかな。
この問題の簡単な背景みたいな話は後々するとしてまずは解いてみます。
(1) 複素数を図形で見る
結局、複素数 $\left(1 + \frac{i}{n} \right)^n$ をどう捉えるかがポイントになってきます。
複素数は平面上に表すと図形的考察ができます。そこからなんとか形を見出せないか?考えてみましょう。
$n$ 乗した形をいきなり平面上に表すのは難しいので、まずは簡単な中身の部分の、 $n=1$ から順番に表してみましょう。
すると…
右のような直角三角形が現れます。
図形的考察によって、直角三角形を発見することができました。これで解けそうです。
ここまでの発見をまとめると…
ここまでの発見の整理
- 図形的考察: 底辺 1, 高さ $\frac{1}{n}$ の直角三角形が現れ、これにより斜辺の長さが得られる
- 複素数として: この斜辺の長さは、複素数 $1 + \frac{i}{n}$ の絶対値に等しい
このようになり、結果として「斜辺の長さ」に関して
\left | 1 + \frac{i}{n} \right| = \sqrt{1 + \frac{1}{n^2}}
\end{align*}
という式が得られます。これが得られれば (1) は実質完了。$e$ の極限の形を使って、
{\left| 1 + \frac{i}{n} \right|}^n = {\sqrt{1 + \frac{1}{n^2}}}^n = \left( 1 + \frac{1}{n^2} \right)^{\frac{n}{2}} = \left( 1 + \frac{1}{n^2} \right)^{n^2 \cdot \frac{1}{2n}}
\end{align*}
よって、求める極限は
\lim_{n \to \infty} {\left| 1 + \frac{i}{n} \right|}^n = \lim_{n \to \infty} \left( 1 + \frac{1}{n^2} \right)^{n^2 \cdot \frac{1}{2n}} = e^0 = 1
\end{align*}
さて、次は(2)です。
(2) 偏角の極限計算
絶対値がわかったので、偏角をおいて処理できちゃえばラクですね。ということで、
\arg{\left(1 + \frac{i}{n}\right)} = \theta_n
\end{align*}
と設定し、絶対値と偏角の2方向からアプローチすることで解決を目指してみます。
\left(1 + \frac{i}{n}\right)^n = {\left| 1 + \frac{i}{n} \right|}^n (\cos{n \theta_n} + i \sin{n \theta_n})
\end{align*}
と変形できるので、次のように $a_n$, $b_n$ を表現できます。
a_n = {\left| 1 + \frac{i}{n} \right|}^n \cos{n \theta_n} \\
b_n = {\left| 1 + \frac{i}{n} \right|}^n \sin{n \theta_n}
\end{align*}
絶対値部分の極限は求められていますから、あとは偏角 $n \theta_n$ の極限を求められればOK。
さて、ここからは角度を評価して「はさみうちの不等式」を作り出す作業です。*1
鋭角の評価にはおなじみのよく出てくる不等式があります。 $\sin{x}$ 絡みの極限の公式の証明の際に出てきますよね。
鋭角 $\alpha$ の評価で使える不等式
\color{#ff0000}{\sin{\alpha} \leq \alpha \leq \tan{\alpha}}
\end{align*}
また、この強化版として、次の不等式も覚えておくと良いかも。
\color{#ff0000}{\sin{\alpha} \leq \alpha \leq \tan{\alpha}}
\end{align*}
これらの不等式自体はグラフからすぐに分かるし、分かんなかったら教科書みたいに三角とか扇型とかで面積比較しましょう。
さて、これを思いつきさえすればもう終わりです。 $n$ が自然数であるという条件から、鋭角であるということも分かりますから、
\sin{\theta_n} \leq \theta_n \leq \tan{\theta_n} \\
\frac{\frac{1}{n}}{\sqrt{1+\frac{1}{n^2}}} \leq \theta_n \leq \frac{1}{n} \\
\frac{1}{\sqrt{1+\frac{1}{n^2}}} \leq n \theta_n \leq 1
\end{align*}
よって、 $\displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{1}{\sqrt{1+\frac{1}{n^2}}} = 1$ よりはさみうちの原理から
\lim_{n \to \infty} n \theta_n = 1
\end{align*}
偏角が分かりますから、以上から
\lim_{n \to \infty} a_n = \lim_{n \to \infty} {\left| 1 + \frac{i}{n} \right|}^n \cos{n \theta_n} = 1 \cdot \cos{1} \\
\lim_{n \to \infty} b_n = \lim_{n \to \infty} {\left| 1 + \frac{i}{n} \right|}^n \sin{n \theta_n} = 1 \cdot \sin{1}
\end{align*}
となり、答えが得られるワケです。
補足
さて、複素数を図形的に捉えるという発想と、評価の発想が必要な問題で、ある程度数Ⅲに習熟していないと厳しい問題だったかもしれませんが、決して死ぬほど難しいという問題ではありませんでした。
オイラーの公式の話
オイラーの公式っていう有名な公式があります。
e^{i \theta} = \cos{\theta} + i \sin{\theta}
\end{align*}
これは、指数の世界と三角関数の世界を結ぶ、なかなか美しい公式で、本文ではこの公式の $\theta = 1$ が背景にありました。
ちなみに、オイラーの公式を使って極限を考えてみると、こうなります。
オイラーの公式を使って極限値を求めてみる
(2) の解答の流れとしては次のようになるんですね。
偏角の極限計算、もっと簡単にできるのでは?
角 $n \theta_n$ の評価については、 $\tan{\theta_n} = \frac{1}{n}$ を満たすので、
n \theta_n = \frac{\theta_n}{\tan{\theta_n}}
\end{align*}
となり、 $n \to \infty$ で $\theta_n \to 0$ より
\lim_{n \to \infty} n \theta_n = \lim_{n \to \infty} \frac{\theta_n}{\tan{\theta_n}} = 1
\end{align*}
このようにして直接求めることも可能ですね。