大学入試 物理チートシート〜交流回路を攻略する〜

高校物理の交流分野をまとめていくよ〜

交流回路について

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とある受験生

交流はクソ!!!!

高校物理の交流といえば、電磁気の最後の方にひょっこり出てきては多くの受験生を地獄の底へと叩き落としがちな分野ですね。
毎年交流分野が理解できなくて物理が嫌いになる高校生が大量発生します。多分ちょうど記事を書いてるこの時期とか。

ですが、基本的には物理における微積分の考え方を理解している人なら、ポイントさえしっかりおさえれば大抵の問題は楽にクリアできるようになります。

ということで、今回は交流回路のメインテーマになりがちな「共振」の部分に特に焦点を当てながら、高校までの数理的な知識でしっかり理解できるように、基本的な部分から説明していこうと思います。

サトゥー

ちなみにですが、東大に入ると「基礎物理実験」というしんどい授業で今回扱う共振のテーマの実験をやります。ここで理解しておけば楽ちんですね。

交流分野が苦手な方は多いですが、基本的なところをしっかりおさえておけば、だいたい直流の場合と同じです。

ポイント

交流は基本をおさえれば直流と同じように解ける!

ということで、この記事が皆さんの頭の中を整理するきっかけになれれば、的な意気込みで書いていきます。

基本事項

先に言っておきますが、高校物理では基本的に正弦波交流を扱います。次の式の形で表されるようなものしか扱いませんよーって話です。

正弦波交流の式

\begin{align*} v=v_0 \sin{\omega t + \alpha} \end{align*}

さて、前置きが長くなってしまいましたがここからです。

抵抗・コンデンサー・コイル

まずは、それぞれの回路素子の特徴を見ていきます。

やることは同じです。
直流で今まで習ったような回路の式を立てて、そこから式変形をして特徴を読み取る

抵抗

まずは抵抗です。以下のような回路を考えてみます。

\begin{align*}
v=v_0 \sin{\omega t}
\end{align*}

とします。以下、指定のない限りずっとそうです。 \(R\) は抵抗、\(i_R\) は抵抗を流れる電流です。この場合は回路を流れる電流と考えていいですね。

ここから \(i_R\) を求めてみましょう。すると何がわかりますか?

$i_R$ を計算してわかること

$v = v_0 \sin{\omega t}$

$R$ にかかる電圧 $v_R$ について $v_R = v = R i_R$

これより $i_R = \frac{v}{R} = \frac{v_0}{R} \sin{\omega t}$

よって、$i_R$ と $v$ は同位相

ふむふむ。ここでわかった結論は、\(i_R\) と \(v\) は同位相 であるということです。
位相ってのはカンタンに言うと sin, cos の中身のことです。

ポイント

$i_R$ と $v$ は同位相

サトゥー

これ、後々重要になってくるのでメモしといてね。

実効値

次に、実効値を求めてみましょう。よく出るので整理しときます。

実効値についての説明は以下のリンクににわかりやすく記載されていますので、ぜひご覧ください。ここでは省略します。
実効値 | わかりやすい高校物理の部屋

実効値というのは、抵抗器に交流を流したときに消費される電力が平均値をとる瞬間の電圧や電流の値のことです。

実効値 | わかりやすい高校物理の部屋

実効値の計算はつぎのようにできますね。

実効値の計算

\begin{align*}
& V = \sqrt{\overline{v^2}} = v_0 \sqrt{\overline{\sin^2{\omega t}}} = \frac{1}{\sqrt{2}} v_0 \\
& I_R = \sqrt{\overline{i_R^2}} = \frac{1}{\sqrt{2}} \frac{v_0}{R}
\end{align*}

サトゥー

「100Vの交流電流」とかいうときの 100V は実効値のことですね。ちなみに上に付いてる棒は時間平均をとってるという意味です

インピーダンス

次はインピーダンスです。

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だれか

インピーダンスってなんだよ、どこの国の踊りですか?

って話になると思うんですが、インピーダンスというのは抵抗みたいなやつだと思ってください。

「抵抗みたいなやつ」って言ったのは、まぁ色々理由がありまして、、
抵抗みたいに電圧と電流に位相差がない場合はインピーダンスは抵抗として考えてもらっていいんですが、これからみていくコイルやコンデンサーのように位相差がある場合は、いろいろ話が複雑になってくるんですね。。
普通は複素インピーダンスなんて呼んで、複素数を使って表したりするんですが、、今回は理解することがメインなので、ベクトル図を使ってイメージの説明をします。複素数は無視します。

サトゥー

結局、インピーダンスは抵抗みたいなやつです。電圧と電流の比とでも押さえておいてください。

さてさて、インピーダンスを求めてみましょう。

インピーダンスの計算

$Z_R = \frac{V}{I_R} = R$

ベクトル図は左のようになります。これは位相のズレを表していると思ってください。

今回だと、 \(i_R\) は \(v\) と同位相なので、ベクトルが同じ向きを向いていますね。

エネルギー収支

回路のエネルギー収支もみておきます。

回路のエネルギー収支

(電源の供給電力 $p$) = ($R$ の消費電力 $p_R$)

よって $v i_R = R i_{R}^{2}$

てな感じで。

ここまではみなさんの知ってることがほとんどだったと思いますし、なんでわざわざベクトル図なんて書いたの?状態だと思いますが、
これは、以降のコンデンサーやコイルをみていくうえでベクトル図を用いて比較して、理解しやすくするためです。
ということで、みなさんが飽きないうちにコンデンサーに行きましょう。

コンデンサー

基本的には同じです。

回路方程式

$v = \frac{Q}{C}, \, i_C = + \frac{dQ}{dt}$

こんな感じで回路方程式を立てて、式変形をしていきます。

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電流が電荷の時間微分っていうのは大丈夫でしょうか?
電荷の単位時間あたりの変化量が電流って考えれば理解できると思います。というか電流の定義かな?

微小時間 $dt$ に流れる電荷量を $dQ$ とすれば、 $I = \frac{dQ}{dt}$ と表されますね。

これをごちゃごちゃいじってあげると。。。

$i_C$ を計算してわかること

$i_C = C \frac{dv}{dt} = \omega C v_0 \sin{(\omega t + \frac{\pi}{2})}$

よって $i_C$ が $v$ よりも位相が $\frac{\pi}{2}$ 進む。

あ、sinとcosは基本的に微分すると位相が \(\frac{\pi}{2}\) 進みます、今回だとざっくり \(i_C\) は \(v\) の微分なので電流の位相が \(\frac{\pi}{2}\) 進むんだな、と理解できますね。

というわけで、ここでもポイント整理。

ポイント

$i_C$ が $v$ よりも位相が $\frac{\pi}{2}$ 進む

さてさて、ここからは同様に実効値、インピーダンス、ベクトル図、エネルギー収支まで一気に見ていきましょう。

実効値・インピーダンス・エネルギー収支の計算

実効値: $V = \frac{1}{\sqrt{2}} v_0, \, I_C = \frac{1}{\sqrt{2}} \omega C v_0$

インピーダンス: $Z_C = \frac{V}{I_C} = \frac{1}{\omega C}$

エネルギー収支: 電源の供給電力 $p = C$ の消費電力 $p_C$

よって $v i_C = \frac{d}{dt}(\frac{Q^2}{2C})$

また、時間平均をとると $\overline{p} = \overline{p_C} = \overline{\frac{d}{dt}(\frac{Q^2}{2C})} = 0$

ベクトル図を見てください。\(\frac{\pi}{2}\) のズレがわかりますよね?

いくつか補足

インピーダンス \(Z_C\) が、\(Z_C = \frac{1}{\omega C}\) と表されるということは…
\(\omega\) が大きい方が \(Z_C\) は小さくなるので、コンデンサーは高周波の交流を電流として通しやすいことがわかります。

この性質を利用すると、「高域透過フィルター(ハイパスフィルター)」なんてのが作れますね。名前のまんま、周波数が高いものを透過するようなフィルターです。ウッ…なんだか東大の実験で扱った気がしますね…嫌な記憶が…

まぁ、こんな感じで簡単に波形の加工ができてしまうんですね。こういった分野に交流が応用されていくわけです。

次に、消費電力を見てください。コンデンサーの消費電力は0となっています。
計算すればわかりますが、\(p\) は0を中心に振動するので、時間平均をとればトータルでは0になります。
交流を流したコンデンサーでは電力は消費されない、つまりジュール熱は発生しません

ポイント

交流を流したコンデンサーでは電力は消費されない。

さて、このことから考えると、インピーダンス \(Z_C\) は、実質上のエネルギー消費をうまないインピーダンスの成分であると言えます。(あえて「成分」と呼びました)

これをリアクタンスと呼びます。

リアクタンス(英: reactance)とは、交流回路のインダクタ(コイル)やキャパシタ(コンデンサ)における電圧と電流の比である。
リアクタンスは電気抵抗と同じ次元を持ち、単位としてはオームを持つが、リアクタンスはエネルギーを消費しない擬似的な抵抗である。誘導抵抗感応抵抗ともいう。

リアクタンス – Wikipedia

特に、 \(Z_C = \frac{1}{\omega C}\) を容量リアクタンスと呼びます。

改めてベクトル図を見てみます。2つのベクトルは直交しているので内積が0になりますね。
じつはこの内積が消費電力に対応しているんです。

成分といったのはこのためです。 \(v\) に直交する成分をリアクタンスと呼ぶんですね。

サトゥー

なんとなくわかってきた?ベクトル図、使えそうでしょ?

コイル

さて、最後にコイルを見ていきましょう。

エネルギー収支まで一気にやりますね。

回路方程式から $i_L$ を計算してわかること

回路方程式は $v – L \frac{d i_L}{dt} = 0, \, i_L = – \frac{v_0}{\omega L} \cos{\omega t} + Const.$

よって $i_L = \frac{v_0}{\omega L} \sin{(\omega t – \frac{\pi}{2})}$ となり、$v_L$ が $i_L$ よりも位相が $\frac{\pi}{2}$ 進む。

実効値・インピーダンス・エネルギー収支の計算

実効値: $V = \frac{1}{\sqrt{2}} v_0, \, I_L = \frac{1}{\sqrt{2}} \frac{v_0}{\omega L}$

インピーダンス: $Z_L = \frac{V}{I_L} = \omega L$

エネルギー収支: (電源の供給電力 $p$) = ($L$ の消費電力 $p_L$)

よって $v i_L = \frac{d}{dt}(\frac{1}{2} L {i_L}^2)$

また、時間平均をとると

$\overline{p} = \overline{p_L} = \overline{\frac{d}{dt}(\frac{1}{2} L {i_L}^2)} = 0$

位相のズレをベクトル図に表現するとこのようになりますね。

ポイント

$i_L$ が $v_L$ よりも位相が $\frac{\pi}{2}$ 遅れる

補足

同様に何点か補足します。

まず、上の方の \(i_L\) の式。右辺の最後の項に \(Const.\) と書いてありますが、これは回路の微小抵抗による影響の定数項です。積分定数として出てきますが、理想的なコイルの場合は0とみなしてよいです。

はい次。
インピーダンス \(Z_L\) が、 \(Z_L = \omega L\) と表されるということは…
\(\omega\) が小さい方が \(Z_L\) は小さくなるので、コイルは低周波の交流を電流として通しやすいことがわかります。

お、コンデンサーの逆ですね。

サトゥー

(ということは、コンデンサーとコイルを組み合わせれば自由自在に加工ができるのでは…?)

次、エネルギー収支を見てください。時間平均を取れば、コイルの消費電力も0になることがわかります。

サトゥー

交流を流したコイルでは電力は消費されない。

その証拠に、ベクトル図は直交してますよね?内積0、つまり消費電力0です。

\(Z_L = \omega L\) を誘導リアクタンスと呼びます。

ここまで整理!

サトゥー

お疲れ様でした。一回整理しましょっか。

3つの回路素子について図にまとめたもの。内積が消費電力になっている
サトゥー

なんか結構脱線しちゃった気がするので、この辺でいったん整理してみました。

次は共振現象を見ていきましょう。超重要、超頻出です。

共振現象

まずは一番簡単で、一番よく使われるLC共振回路を見ていきます。
これが理解できていれば、あとは基本的に今までの知識の応用でなんとかなります。

共振現象とは、ある振動数において回路の電流が最大になったり最小になったりするようなことだとイメージしておいてください。容量リアクタンスと誘導リアクタンスが等しい時に起こります。

基本的に振動数が大きくなるにつれて、容量リアクタンスは小さく、誘導リアクタンスは大きくなっていきますから、ある振動数において2つの大きさが一致します。

この時、それぞれが位相 \(\frac{\pi}{2}\) ずつズレているので、結果的にベクトルが打ち消し合います。このようにして共振現象は起こるのだ、と捉えておいてください。

サトゥー

次の2パターンと、それぞれの場合の性質をおさえてください。

パターン1: LC直列
パターン2: LC並列

パターン1:LC直列

先ほどもいったように、コンデンサーとコイルは逆向きに位相が \(\frac{\pi}{2}\) ずつズレています。
LC直列回路では、ある位相の電流に対して、コンデンサーとコイルのそれぞれにかかる電圧の位相は逆位相になっています。

よって、この大きさが等しいタイミング、つまり \(Z_C = Z_L\) のとき、LC全体の電圧 \(v\) は恒等的に0となります。
\(\frac{1}{\omega C} = \omega L\) より \(\omega = \frac{1}{\sqrt{LC}}\) ですね。

パターン2:LC並列

LC並列回路では、ある位相の電圧に対して、コンデンサーとコイルのそれぞれに流れる電流の位相は逆位相になっています。

よって、この大きさが等しいタイミング、つまり \(Z_C = Z_L\) のとき、LC全体の電流 \(i\) は恒等的に0となります。
これも \(\omega = \frac{1}{\sqrt{LC}}\) ですね。

ポイント

$\omega = \frac{1}{\sqrt{LC}}$ は共振各周波数とも呼ばれたりする。

以上の2パターンが全ての基本です。これを逆に利用すれば、特定の周波数が取り出せたりもしますね。

回路に当てはめて

さて、ここまで理解できればもう交流分野は怖くありません。実際に2つの代表的な回路を見てみましょう。

RLC直列回路

図のような回路を考えます。

とりあえず、全体の電流と全体の電圧の位相のズレを \(\alpha\) とでもおいて考えましょう。

\begin{align*}
i = i_0 \sin{(\omega t + \alpha)}
\end{align*}

すると、ベクトル図を次のように書くことができますね。

v はすべてのベクトルの和になります

これは今までやってきたことを整理すればすぐにかけますよね。

サトゥー

てか、ベクトル図が書ければこの問題終わりなんですけどね。

さて、このベクトル図を元に計算してます。
ベクトル図から、

\begin{align*}
& v_0 = i_0 \sqrt{R^2 + {(\omega L – \frac{1}{\omega C})}^2} \\
& \alpha = \, – \theta \, ( \tan{\theta} = \frac{\omega L – \frac{1}{\omega C}}{R}, – \frac{\pi}{2} < \theta < \frac{\pi}{2} )
\end{align*}

また、インピーダンス $Z$ は、

\begin{align*}
Z = \frac{v_0}{i_0} = \sqrt{R^2 + {(\omega L – \frac{1}{\omega C})}^2} = \frac{R}{\cos{\theta}}
\end{align*}

こんな感じで、回路全体のインピーダンスを求めることができますね。

消費電力は次のように計算できます。

ほら、全体の電圧と電流の内積になってることが確認できましたね。

ついでに、東大で僕が現役で受けた年の物理で出たネタを一つ入れときます。
共振回路の周波数(振動数)ごとの特性をまとめると、次のような尖った山のグラフが得られます。

この山の鋭さ、つまり共振の鋭さを表す目安として、Q値と呼ばれるものがよく用いられます。

振動スペクトラムの共振ピーク近傍の形はその振動系の振動状態を特徴付ける。Q値とは

\begin{align*}
Q = \frac{\omega_0}{\omega_2 – \omega_1}
\end{align*}

で定義される無次元数。ここで \(\omega_0\)  、 \(\omega_1\) 、 \(\omega_2\) はそれぞれ共振ピークでの共振周波数、共振ピークの左側において振動エネルギーが共振ピークの半値となる周波数、共振ピークの右側において振動エネルギーが半値となる周波数である。ここで \(\omega_2 – \omega_1\) を半値幅と呼ぶ。

Q値 – Wikipedia

こんな感じです。

さて、それでは今回のRLC直列回路でのQ値を求めてみましょう。

東大でもこんな感じの問題が出ましたよね。(2016 第2問)

サトゥー

あーこれ現役の時できてれば受かったんだろうなぁ。。。

ポイントまとめ

というわけで、そろそろ終わりにしましょうか。基本的な問題はベクトル図だけでいけます。
ちょっと変な回路が出てきて、ベクトル図でどうにもならないような時には、原点に戻って、丁寧に文字をおいて微分や積分を駆使して、計算で解きましょう。

微積分といっても、sin, cosの微分は位相を \(\frac{\pi}{2}\) ズラすだけですし、簡単でしょ?

サトゥー

最後に、ポイントをまとめておきます。

ポイント

・それぞれの回路素子の特性を理解する。(位相のズレ、ベクトル図がかけるように!)

・共振現象の仕組みを理解する。

・共振角周波数は $\omega = \frac{1}{\sqrt{LC}})$

・ほとんどの回路はベクトル図かいて終わり。かけない場合は原点に戻って普段どおり計算しよう

・本質的には直流とやること変わらん!

ということで、整理できたかな?
まとめにしてはあまりにも長過ぎたかな?

物理の微積分の理解のために

問題演習にどうぞ

参考サイト

コメント返信

S

とても分かりやすかったです!ベクトル図で解けない問題もあるんですか?

サトゥー

基本的な問題はほとんどベクトル図を書けば解けるはずですが、ベクトル図に必要な位相の情報がわからない場合などは式を丁寧に立てて追う必要があります。自分の感覚としては、よくわからない回路が出てきたら無理にベクトル図を立てて解く必要はないかなと思います。

S

位相の情報が分からない問題があるんですね⁉︎初めて聞きました。
お返事ありがとうございました。

サトゥー

ごめんなさい、「位相の情報がわからない」というよりも、「位相の情報がわかるくらいに問題の意味が理解できてない」が適切ですかね。
新しい概念は習得に多少の時間がかかるので、慣れないうちは、よくわからない場合は無理にベクトル図にこだわらなくても良いという話でした。


この記事を書いた人

サトゥー

東大学際情報学府M1。情報科学と教養の海に溺れています。面白いことをやるのがすきです。